「ちょっと、窓閉めてくれる?風が冷たい」
そんな事を言いながら缶ビールを4本も空けてポテトチップスを摘んでいるのが友人の由美である。
「いや、窓なんて開けてないやで」
一応窓を確認したが案の定開いてはいない。
「いやいや、開いてるよ。本当に確認した?」
「確認したし、本当に開いてないよ。飲みすぎなんじゃあないの?」
「ふぅん、ならいいけど。眠いしそろそろ帰るよ」
ようやく食い下がった友人は千鳥足で私の住む1kの部屋を出ていった。
そういえば確かになんだか窓も開いてないのに風が吹いているような気がしてきた。
隙間風だろうか?風だけならともかく、ムカデやアシダカグモまで隙間から入ってきたら嫌だなあ。
どこに隙間が開いているのか私は探すことにした。だって虫が入ってきたらいやなんだもの。
窓際には隙間は空いていなさそうだった。
玄関はガラクタだらけでとてもじゃないが隙間を探せそうにない。
あっ、片方失くしたと思っていた靴が出てきた。
そんな事をしているうちに、何かが列を生して蠢いていた。目を凝らして見ると…。
シ ロ ア リが、大量のシロアリがガラクタに隠れて玄関の壁をかじっていた。
なるほど、見事な隙間が空いている。
おまけに声まで聞こえてくる。
よーく聞き耳を立ててみると、会話のようだった。
「いやあ、親方、捗りますねぇ。ここは隠れる場所が沢山あって解体作業が捗りやすい」
「ここの主はどうやら玄関周りに関心が薄そうだからなあ。おや、こんなところに小銭が落ちているよ」
「こりゃあゴミ屋敷待った無しっすよ!ここの主掃除もまともにやりゃしない!」
「余 計 な お 世 話 !」
シロアリがあろう事か会話をしていた。ちょくちょく陰口をたたいていたので思わず殺虫剤を撒いたのは言うまでもない。
とりあえず、シロアリが空けた隙間にはガムテープで目張りをした。
風の出どころもわかったし、私も寝ようかな。
部屋に戻ってベッドで寝転ぶ事にした。
それにしても友人につられてたくさん飲みすぎてしまったが、この夜風のお陰でシロアリも退治できたし今日は万々歳である。
どこからか吹いている風がとても気持ちがいい。
うとうとしていると、天井の板が1枚外れている事に気付いた。
そこから覗いていたのは1匹のクロゴキブリだった。
ー後書きー
いつだかの即興小説の転載です。
ファンタジー物以外にも、こんな感じの短編をたまに書いたりします。